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◆永遠のチャンプ
大場政夫さんは世界チャンピオンのまま、交通事故で亡くなりました。
それで永遠のチャンプと呼ばれているのですが、私には悲運のボクサーという感じの方が強いですね。まだ23歳でしたから、これからさらに強くなる、まさに夢の途中だったからです。
◆平凡なスタート
彼は新人王にもなっていませんし、アマチュア経験もありません。柴田さんは新人王はもちろんのこと、その後も連戦連勝、ハーバード康に負けるまでは無敗でした。世界チャンピオンになったボクサーのほとんどは、アマチュア経験がない場合、新人王は当たり前のタイトルでしたからね。
大場さんは、華々しい戦歴もなく10回戦ボクサーになってからも、飛び抜けて強いということはありませんでした。日本タイトルも東洋タイトルも取ったことがありません。
その点では西城さんに似ていますね。
ただ、当時の日本チャンピオンにも東洋チャンピオンにもノンタイトルでは勝っているんですよ。実力はあったが、今ひとつ地味、という存在ですか。
◆一気に駆け上る
転機になったのは海老原博幸さんに勝ったこと(1969年12月)かもしれません。
海老原さんはこの後すぐに引退しました。(海老原さんも大場さんと同じく故人)まさにバトンタッチという感じがしますね。
そしてまたもノンタイトルで当時の世界チャンピオン、バーナベ・ビラカンポに勝ち、ついに世界の舞台に躍り出ました。
1970年10月、ベルクベック・チャルバンチャイを13回にストップし、ついにWBA世界フライ級タイトルを獲得しました。しかも、今や数々の世界チャンピオンを輩出している帝拳ジムの初の世界チャンピオンとなったわけです。
◆KOパンチャーに変身
大場さんは、世界タイトルでKO勝ちするまでは、ほとんど判定勝ちでKOはわずかしかありませんでした。
ところが、世界タイトルを取ったころから急にKOが増えていきます。不思議ですね~相手が強くなっているから、減るのが普通なのに。おそらくこの辺りの成長が辰吉さんにはなかったのでしょうね。
彼のボクシングスタイルはワンツーストレートが主体で、あまりフックやアッパーを打っているという記憶がありません。
実に単純明快なボクシングで、しかも決して打たれ強くもありません。ラッシュしてぼこぼこに打って倒すが、たまにカウンターをもらってひっくり返る。見ていてホントに面白いボクシングでした。
◆たくましいチャンプ
当時は、世界戦の間にノンタイトルマッチを挟むことが普通で、彼もノンタイトル戦をいくつかこなしています。
驚いたのはメキシコまで渡り、メキシコのチャンピオンとノンタイトルマッチを行い、ダウンを奪われながら、逆転KO勝ちしていることです。今では絶対に考えられませんね。こんな試合、チャンピオンにとって何のメリットもありませんから。
でも、彼がチャンスを掴んだのも、世界チャンピオンとのノンタイトル戦だったのだから、そんなせこい考えはなかったのでしょうね。本当にたくましいチャンピオンです。
激戦が多かったから、知らず知らずの内に、ダメージを蓄積していたのでしょう。
たしか、カーブを曲がりきれず、コーナーに激突した、ということらしいです。本当に残念でたまりません。